アイデンティティから始める変化:目標ではなく、その人になる
どんな変化にも、三つの層があります。
- 結果:手に入れたいもの(体重を減らす、本を書く、お酒をやめる)
- 過程:すること(食事の計画、書く予定、断酒のプログラム)
- アイデンティティ:自分が誰だと信じているか(健康な人、書き手、お酒を飲まない人)
多くの人は外側から内側へと取り組みます。望む結果から始め、そこに至る過程をつくり、アイデンティティがあとから追いついてくれることを願います。このやり方は短期間の順守は生みますが、長く続く変化はめったに生みません。
変化がずっと続く人は、内側から外側へと取り組みます。誰になりたいかを決めると、結果は自然についてきます。
これはただの気休めの励ましではありません。ただし、研究は自己啓発書が思わせるより薄いものです。今ある研究は同じ方向を指しています。下で紹介する「しない」の研究が示すように、自分をどう言い表すかが、することを形づくるのです。
アイデンティティと行動のループ
アイデンティティは行動を形づくり、行動はアイデンティティを形づくります。それはフィードバックのループです。
自分は「朝型ではない」と信じていれば、スヌーズを押します。スヌーズを押すと、その思い込みが強まります。自分は「ランナーだ」と信じていれば、走りに行きます。走ると、その思い込みが強まります。
ループはどちら向きにも回ります。つまり、どちら側からでも入れるということです。自分はランナーだと決めて(アイデンティティ)、それから走る(行動)こともできます。走り始めて(行動)、少しずつランナーになっていく(アイデンティティ)こともできます。
どちらも効きます。ただ、アイデンティティから始めると、行動に目的と枠組みが与えられ、長持ちしやすくなります。
行動から始める変化がうまくいかない理由
アイデンティティに手をつけずに行動を変えようとすると、心の中で綱引きが始まります。
例: 毎日ジムに行くと決めます。でも心の奥では、自分を運動が得意な人だとは思っていません。毎朝、心の中で衝突が起きます。計画は「ジムに行け」と言い、アイデンティティは「あなたはジムに行くような人ではない」と言います。
やる気のある日は計画が勝ちます。やる気のない日はアイデンティティが勝ちます。そしてほとんどの日はアイデンティティが勝ちます。それが初期設定で、保つのに気力がいらないからです。
これが、多くの人の自己改善が続かない理由です。自分自身のアイデンティティと戦っているのです。しばらくは歯を食いしばって耐えられても、いずれアイデンティティがまた主導権を取り戻します。
アイデンティティはどう変わるのか
ジェームズ・クリアーは、これを見事に言い表しています。あなたがする一つひとつの行動は、なりたい人のタイプへの一票だ、と。
一票で選挙が決まることはありません。でも、同じ方向への票が十分集まれば、過半数になります。運動する日が十分重なれば、運動する人になります。書く日が十分重なれば、書き手になります。飲まない日が十分重なれば、お酒を飲まない人になります。
アイデンティティの変化は、根拠の積み重ねによって起こります。
- アイデンティティを選ぶ:「毎日体を動かす人になりつつある」
- 小さな行動をとる:10分散歩する。
- 根拠を記録する:「今日は歩いた。毎日体を動かす人がすることだ」
- 繰り返す:繰り返すたびに、もう一票加わる。
- アイデンティティが更新される:票が十分集まると、思い込みは願いから事実に変わる。
この過程はゆっくりです。ある朝目覚めたら新しいアイデンティティになっていた、ということはありません。一票ずつ、一日ずつ積み上がり、ある日ふと気づきます。これが今の自分なのだ、と。
実践する
どの目標も、アイデンティティの言葉に言い換える
| 行動の目標 | アイデンティティの言葉 |
|---|---|
| 体重を減らしたい | 健康な人になりつつある |
| 本を書きたい | 書き手になりつつある |
| お酒をやめたい | お酒を飲まない人になりつつある |
| もっと運動したい | アスリートになりつつある |
| もっと生産的になりたい | やり遂げる人になりつつある |
アイデンティティの言葉は、すべてを変えます。特定の結果の話ではなく、ある種類の人の話になります。そして、いったんその種類の人になれば、結果は自然に起こります。
毎日の行動を根拠として使う
ここで、今日できたこととアイデンティティの変化が、きれいに重なります。
今日できたことの一つひとつが、新しいアイデンティティの根拠です。「走った」「今日は飲まなかった」「500字書いた」と記録するとき、ただ活動を記録しているのではありません。自分は走る人、飲まない人、書く人だという根拠をためているのです。
Auraのような記録の道具は、二つの役目を果たします。行動を記録し、さらにアイデンティティを育てます。グリッドに並んだ30日分のチェックを見るのは、ただ気分がいいだけではありません。アイデンティティをつくるものです。なりつつある自分への30票なのです。
完全に一致させようとしない
走り始めるのに、ランナーだと感じている必要はありません。アイデンティティが遅れてくるのはふつうのことです。しばらくは偽物のような気がするでしょう。運動しているのに、まだ「運動する人ではない」と感じる。それでかまいません。行動が先に来て、アイデンティティがあとからついてきます。
行動と自己像が合わない、ぎこちない中間の時期は、失敗のしるしではありません。移り変わりの時期です。投票を続けましょう。
「できない」ではなく「しない」と言う
Journal of Consumer Researchに掲載された一連の実験で、ヴァネッサ・パトリックとヘンリック・ハグトヴェット(2012年)は、誘惑を断るときに「できない」(我慢の言葉)ではなく「しない」(アイデンティティの言葉)を使うと、人はより自分で舵を取っていると感じ、体に良くない間食を見送るといった、目標に合った選択をしやすくなることを見つけました。これらは短期間の実験室やフィールドでの研究で、長期の研究ではないので、法則ではなく、役に立つコツとして受け取ってください。
「砂糖は食べられない」は制限をほのめかします。外側の何かに止められているのです。「砂糖は食べない」はアイデンティティをほのめかします。それが自分なのです。
「お酒は飲めない」と言うと、我慢させられている気がします。「お酒は飲まない」と言うと、力がわいてきます。同じ行動でも、言い方が変われば感じ方が変わります。
周りにアイデンティティのきっかけを置く
環境には、なりつつある自分が映っているべきです。
- ランナーは、玄関にシューズを置き、壁にレースのゼッケンを貼っている
- 書き手は、道具のそろった専用の書く場所を持っている
- お酒を飲まない人は、ノンアルコールの飲み物を棚にそろえている
- 読書家は、家じゅうの目につくところに本を置いている
こうした環境のきっかけは、その行動を実際にしていないときにも、アイデンティティを強めてくれます。受け身の票です。
アイデンティティと連続記録
連続記録に力があるのは、一つにはそれがアイデンティティの根拠として働くからです。50日続いた運動の連続記録は、ただの50回の運動ではありません。「自分は毎日運動する人だ」への50票です。
連続記録が長いほど、アイデンティティは強くなります。だからこそ、連続記録が途切れるのはとてもこたえるのです。数字を失うだけではありません。これまでになってきた自分の一部を失うように感じられます。
でも、ここで大事な捉え直しがあります。連続記録が途切れても、築いたアイデンティティは消えません。「運動する人」への50票は、51日目を逃したからといってなくなりません。アイデンティティはそのままです。投票を続ければいいだけです。
もっとも深い変化
アイデンティティの変化を伴わない行動の変化は、薄れていくことがよくあります。アイデンティティの変化は長続きしがちです。
お酒をやめることを「すること」ではなく、自分そのものだと見るようになると、毎日の交渉は終わります。運動が作業ではなく、アイデンティティの表れになると、やる気は関係なくなります。書くことが書き手のすることで、そして自分が書き手なら、白紙のページは障害ではなく、誘いになります。
これが自己改善のもっとも深いところです。することを変えるのではなく、自分が誰であるかを変えることです。ほかのすべては、そこから流れ出します。
一つのアイデンティティから始めましょう。今日、一票を投じる。明日、もう一票。
なりつつある自分は、もう姿を現し始めています。小さな行動一つずつで。
よくある質問
アイデンティティにもとづく習慣とは何ですか?
アイデンティティにもとづく習慣は、何を達成したいかではなく、誰になりたいかに焦点を当てます。「マラソンを走りたい」(結果)ではなく、「自分はランナーだ」というアイデンティティを持ち、毎日の行動をその自己像から流れ出させます。一回一回のランニングは、遠い目標への一歩ではなく、自分のアイデンティティへの一票になります。
習慣を変えるために、どうやってアイデンティティを変えるのですか?
まず誰になりたいかを決め、その人がとるいちばん小さな行動を見つけます。その行動をするたびに、新しいアイデンティティに「一票」を投じます。何週間、何か月かけてこの票が積み重なると、新しいアイデンティティが自然に感じられるようになります。はじめから完全に信じる必要はありません。根拠が信じる気持ちを育てます。
なぜアイデンティティの変化は、行動の変化より力があるのですか?
行動の変化は、することに取り組みます。アイデンティティの変化は、自分が誰であるかに取り組みます。行動の変化は、自己像に逆らって行動するので、いつも意志力を必要とします。アイデンティティの変化は、その行動を自然で、自分らしいものに感じさせます。自分をお酒を飲まない人だと思っている人は、一杯を断るのに意志力はいりません。ただ、それは自分のすることではないのです。
アイデンティティは本当に変えられますか?
はい。アイデンティティは固定されたものではありません。根拠と経験によって強められる、思い込みの集まりです。あなたがとる行動はどれも、何らかのアイデンティティの根拠です。なりたい自分に合った行動を意識して選び、その根拠を時間をかけて積み重ねれば、自己像と、そこから流れ出す行動は本当に変わります。